データセンターは巨大で、多くの電力を使い、複数のセキュリティ層に守られて稼働しています。その存在に人々が興味を持つのも無理はありませんし、ときには懐疑的になることもあります。しかしエネルギーを浪費する「謎の施設」というイメージとは裏腹に、データセンターは日本のデジタル経済の重要な基盤として、AIからオンライン決済、eコマース、教育や医療研究に至るまで、あらゆる分野を支えています。ここではデータセンターに関して根強く残るいくつかの誤解を取り払い、真実に迫ってみましょう。
実際のところ、データセンターとそこに置かれたコンピューターの中で使われるアプリは、私たちの日常生活において、多くの重要な役割を担っています。好きな映画をストリーミングしたり、オンラインで買い物をするなど、とても便利なものなのです。
まず、データセンターの通信ネットワークはコミュニケーション方式を革新して地理的な限界を越えてデータを迅速かつ効率的にやり取りできるようにしました。これによりメールやビデオ会議、ソーシャルメディアを通じて、世界中で個人やビジネスの交流が広がっています。こうした取り組みによってデータセンターは従来の想像を超えたグローバルなコネクティビティやモビリティ、そして個人や経済活動の生産性向上をもたらしました。
次に、AIの登場以前から、データセンターの中のアプリはさまざまな作業を自動化し、業務プロセスを合理化することで、ビジネスや製造業、医療、教育など幅広い分野の生産性を高めてきました。その結果、社会を前進させる創造的・戦略的な業務に充てる時間を増やすことにもつながりました。
さらに、データセンターは情報や教育のためのリソースなどへの多数のアクセスを実現させ、オンライン学習プラットフォームやデジタルライブラリーなどを通じて、人々の学習や研究の方法を大きく変えました。これは、地域や組織にかかわらず情報を得られる「情報の民主化」を可能にしています。科学研究の分野でも、データセンター内のアプリによって複雑なモデリングやデータ分析が行われ、社会が抱える大きな課題を解決するブレイクスルーをもたらしています。そしてAIの力を借りることで、医療の分野でも診断や治療、患者のケアの改善といった大きな進歩が進んでいます。
最後に、データセンターは経済成長とイノベーションを後押しし、地域社会および世界経済の雇用創出に貢献しています。これからデータセンターに関する6つの大きな誤解と、それに対する真実を議論していきましょう。
1. データセンターは環境に悪い 。 電力を使いすぎる
―確かに、データセンターはこれまでに述べた多様な役割をすばやく効果的に担うため、大量の電力を必要とします。ただし、コンピューターを1か所に集約して稼働させることで、電力と冷却を集中管理できるため、両方の効率が高まります。
データセンターにはPUE(Power Usage Effectiveness)という特有のエネルギー効率指標があります。これは、施設全体が消費するエネルギー量を、IT機器が使用するエネルギー量で割って求められます。値が低いほどエネルギー効率が高く、PUEが1.0ということは、設備全体が使うエネルギーがすべてIT機器に使われ、余計な消費がないことを意味します。PUEは2007年に高まるエネルギー問題への対策として提唱され、データセンターの性能を一貫して測定し、省エネルギー施策を特定・実行し、長期的な改善を追跡し、運営コストと環境負荷を削減するための国際的な基準となりました。
日本の最新鋭データセンターの平均PUEは1.2〜1.4程度とされ、一方で古いエンタープライズ・データセンターでは2.0を上回ることが多いと言われています。これは、Ada Infrastructureのような最新のデータセンターが、過去のものよりもはるかに省エネルギーであることを示します。さらに、ハイパースケール事業者は世界最大規模の再生可能エネルギーの購入者かつクリーンエネルギーの推進者であることも見逃せません。こうした事実を踏まえると、環境への影響に関するイメージは大きく変わってきます。
また、データセンターが直接消費するエネルギーにとどまらず、私たちの暮らしの中でデータセンターが省エネルギーを促進している面も忘れてはなりません。例えばオンラインバンキングやeコマースは、時間や資源の節約につながります。日本ではAmazonや楽天が最もよく利用されるウェブサイトの一つです。
2. AIの普及で電力需要が急増し、電力網がパンクしてしまう
AIに使われるGPUサーバーが大量の電力を消費し、多くの熱を発生させるのは事実です。しかし、こうしたサーバーは通常、空冷技術よりもはるかに効率的な液冷技術を採用しています。
さらに、AIによる電力需要の高まりが、政府や電力会社に電力インフラの近代化を促すきっかけにもなっています。もともと日本は海外の石油依存や自然災害リスクへの対策、また競争力やコスト削減などを目的として、エネルギー効率を高める技術で世界をリードしてきました。原子力だけでなく、太陽光、水力、地熱などのクリーンエネルギーにも大きく投資しており、これらの革新が送電線の整備やスマートで強靭なインフラ構築を後押ししています。
もちろんAIの普及で電力需要は増えますが、そのAIを支えるデータセンターの運営事業者には、緊急時に独立して稼働したり、電力網への負担を抑えたりするシステムとリソースが備わっています。実際、2011年に日本でマグニチュード9.0の大地震が発生した際、大手データセンター事業者はバックアップシステムと施設内の燃料備蓄によってオンラインのまま稼働を続けました。
3. データセンターは大量の水を浪費し、地域の資源を枯渇させる
データセンター内のサーバーは多くの熱を発生させ、効率的な稼働のための冷却が不可欠です。しかし最大規模のデータセンターであっても蒸式の水を使わずに運用することが可能なのです。ずっと補給水が必要なオープン式の空調システムとは異なり、クローズド式システムでは冷却水を繰り返し利用するため、水の使用量が最小限に抑えられます。水の使用を抑え、公害物質の排出を減らすことで、データセンター稼働に伴う環境への影響を軽減します。
4. データセンターは多くの雇用を生まない
Microsoft、Amazon Web Services(AWS)、Google、そしてAda Infrastructureをはじめ多くのグローバルなデータセンター事業者は、デジタルインフラ関連の高収入なキャリア形成への道筋を作るために、大規模な研修プログラムに投資しています。これらは純粋なIT職だけではなく、電気技師や空調技術者、施設管理者、ネットワークエンジニアなど、多岐にわたります。オペレーションにおいて自動化は助けになりますが、最終的には人間が我々の知識と判断で運営を担います。
関連するサプライチェーン全体まで考えれば、雇用数はさらに増加します。AWSの発表によると、同社は2027年までに東京と大阪にある既存のクラウドインフラに2.26兆円を投資し、日本でのクラウドサービス需要の成長に対応するとしています。これにより日本のGDP(国内総生産)に5.57兆円相当の貢献が見込まれているという試算もあります。
Ada Infrastructureでは、日本を含む世界各国の大学や専門学校と提携し、デジタルインフラ分野でのキャリアへの扉を開く取り組みを行っています。このプログラムには社会的にこのような機会が限られている層も含まれており、新たに成長し続けるクラウド・AI分野で必要とされる人材パイプラインを支えると同時に、日本国内の人材不足に対応しています。
5. データセンターは大手テック企業ためだけの施設である
ほぼ全ての人やあらゆる業界がデータセンターを必要としています。医療、金融、交通、教育、建設、家電、小売、防衛、緊急サービス、さらには農業でさえ、データセンターに頼っています。私たちが使うデバイスの後ろには、どこかのデータセンターが存在しているのです。
日本は古くから技術革新とその受け入れが進んでおり、今ではデジタルヘルスの最先端に立ってAIを活用した早期病気発見や個別化医療を推進しています。また高齢化社会に対応するために、ロボット技術や遠隔医療、ウェアラブル技術などが進化してきました。
ロボット技術は製造業だけでなく、オフィスや飲食店、病院など、日常的な場面でも活用が進んでいます。日本の家庭では、タッチスクリーン付きの冷蔵庫やスマートトイレ、スマート空気清浄機など先進的な家電が普及しており、快適性や効率性を高めています。また、IoT機器は工場や農業にも取り入れられ、リソース管理や生産効率の向上に寄与しています。総じて、日本がテクノロジーを生活のあらゆる面に取り込んでいることは、国民の生活の質を向上させるだけでなく、世界的なイノベーションと社会的ウェルビーイングの模範となっていると言えるでしょう。
6. データセンターは地域社会に利益をもたらさない
データセンターは地域コミュニティに大きな恩恵をもたらし得ます。
まず、大規模なデータセンターは段階的に建設が進められることが多く、完成までに何年もかかるケースがあります。その期間、請負業者やベンダーが家族とともに地域に移り住み、実際にデータセンター運営担当者も同様に集まるようになります。機器サプライヤーやネットワーク施工業者など、関連業界も同じく集まってきます。
この移動によって、飲食店や商業施設では課税対象となる売上が増加し、住宅市場も活性化します。実際、印西市の例では、千葉ニュータウン中央駅前に大型ショッピングセンターが開業し、ビジネスホテルの2棟目が完成するなど、データセンター開発による地域への商業効果が一因となっています。
日本の技術分野は深刻な人材不足に直面しており、デジタルインフラが高度化するに伴い、優秀な人材への需要が高まり、テック産業全体の給与水準を押し上げています。これはAIやクラウドコンピューティング、サイバーセキュリティなどデータセンターに関わる職種でも同様です。世帯収入が向上すると、教育や安全な地域づくりへの投資が可能になり、長期的な好循環が生まれます。
結論
Ada Infrastructureでは、日本が堅牢かつ持続可能で、社会の利益に貢献するデジタルインフラを構築する上で先駆的な存在になれると考えています。私たちは「もったいない」という日本の概念にインスパイアされ、廃棄を減らし、効率を高め、地域社会に長く価値をもたらすデータセンターづくりを目指しています。
イノベーションに注力することで、日本のデータセンター産業は、単にテクノロジーを支えるだけでなく、社会全体に新たな機会を生み出し続けることができるのです。
参考:
https://www.tepco.co.jp/en/challenge/energy/power-s-e.html
https://www.elinext.com/industries/healthcare/trends/japanese-health-technologies/
https://www.appliedclinicaltrialsonline.com/view/is-japan-leading-a-new-digital-health-movement-
2025 Japan IT and Technology Salary Guide | Robert Half
Data Centers Japan
アジア太平洋地域、欧州、米国にわたるグローバルなデータセンター運用管理において豊富な経験を積んだ、実績のあるプロフェッショナルで、現在はAdaの日本地域を統括しています。それ以前はAWSで6年間、データセンターキャパシティ&デリバリー担当のAPACディレクターとして、10ヵ国にまたがる大規模なデータセンターポートフォリオの管理、シリコンバレーの Yahoo!にて8年間、グローバル規模のデータセンター開発と運営の責任者を務めていました。